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教員の今井です。ビジネスデザイン学科の専門科目には、「ビジネス開発研究」という実践型の授業があります。ビジネスの最前線で活躍する実務家をお招きして事例を講義していただいたり、実際の事例について学生に当事者の視点で考えさせる対話型の授業で、セクターやテーマに応じ年間7講座ほど開設されています。今日はその中で、「企業におけるESGの実践」をテーマとする「ビジネス開発研究E」をレポートします。
サプライチェーンが国境を越えて広がっている現在では、自社の製品やサービスがどのように製造され、販売され、消費され、廃棄されているかを、くまなく漏れなく掌握することはほとんど不可能です。ところが、CO2の排出など環境汚染や、労働者の人権など社会的な諸課題は、企業活動のすべての工程で発生しうる上、たとえ資本関係がなくとも、ひとたび人々の知るところとなれば、企業はたちまちレピュテーション(評判)リスクにさらされます。
特にグローバルな企業においては、事業活動が及ぼす影響の範囲が無限に広がり、課せられる社会的責任も多岐にわたっています。しかし一企業が実際に負うことができる責任の範囲には限界があるため、各社が自力で、あるいは、専門NGOなどパートナー組織と協力しながら、必死で発生抑止・再発防止・現状改善の努力を行っているのが現状です。
2022年度のビジネス開発研究Eでは、企業はこうしたESGに対する最前線の情報を学ぼうということで、3つのテーマを取り上げて専門家をお招きしました。
Cause-related Marketing
CRMとは自社に直接・間接に影響する環境・社会課題(cause)に、自社のマーケティング力と消費者の購買力を使って対応しようというもので、古くはアメリカンエクスプレスが行った「自由の女神」修復工事キャンペーンが有名です。日本では東日本大震災の際に、yahooが検索1回につきマッチングで寄付する仕組みを作ったり、キリンが福島県の果実を使ったチューハイを発売し売り上げを復興に役立てたり、といったキャンペーンで有名になりました。今回は、「一億人のバレンタインプロジェクト」や東日本大震災復興のためのソーシャル・プロデュースを手掛けている野村尚克様にお越しいただき、学生たちが実際にCRMを発案しました。
学生たちが考えた案は、次の通りです。
〇生理の貧困を軽減するため、生理用品メーカーと啓蒙活動をしている出版社と組んで購買キャンペーンを行い、全国の小中学校に生理用品を無償で配布するプロジェクト
〇回転ずしの業界団体および環境保護団体と組んで、魚を救え!キャンペーンを行い、その売り上げから、大学で海洋資源を保護するためのビジネスコンテストの運営費用と起業資金となる賞金を捻出。
〇赤字経営に陥っている畜産業、特に島根県の乳牛産業を救うため、地元の牛乳企業と組んで特別キャンペーンを行い、売り上げを直接畜産農家に還元する、日本版フェアトレード。
〇ゲームソフトで有名な玩具メーカーおよび、途上国の子ども支援で有名なNGOと組んで、知育玩具を購入するたびにその売り上げの一部が途上国の学校備品の購入費用として寄付される。知育玩具や知育ソフトを購入する親たちは、世界の子どもたちの教育にも共感してくれるとの狙い。
〇全国的なコンビニチェーンと組んで、オリジナルブランド商品の売り上げをラオスでの学校設立資金に充てる。
〇世界的に展開している日本のアパレルメーカーと組んで、社会問題化している食品廃棄物を再利用した100%オーガニックな洋服を作り、化繊過敏症の人でも着やすいアパレルを浸透させる。
ESGスコア評価
投資家向けのESG評価機関であるアラベスクS-Rayの日本代表・雨宮寛様をお招きして、任意の複数企業のESGスコアを実際に検索して、比較検証するグループワークを行いました。学生たちはグループごとに、①気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同しているキリン、伊藤忠、三井住友建設、②家電業界のパナソニックとサムスン、③明治製菓とロッテ、④小売り大手コストコとウォルマート、④アパレル大手のユニクロとH&M、⑤化粧品の資生堂とLVMHとAmore Pacific(韓)を取り上げました。
顕著だったのが、グローバルなESG基準で評価すると、日本企業の多くはGのガバナンス(企業統治)において海外企業よりも低いスコアとされる傾向にあったことです。背景には、日本では経営陣の多くが社内登用であり、女性の比率が低いので「取締役会の多様性に欠ける」とみなされる傾向が強く、また英語による非財務情報の開示がまだそれほど進んでいないために、投資家や評価機関に実力を理解してもらえないことなどが影響しているようです。
サーキュラーエコノミー
最後に取り組んだのは、サーキュラーエコノミー。国連グローバルコンパクトネットワークジャパンの氏家啓一様、三菱ケミカルホールディングスの庄司良子様などのご協力で、循環型のビジネスプランを考えるグループワークを行いました。「再生可能なプラスチック素材」は原材料、生産ライン、販売、回収等において既存のラインとは別のものを必要とすることから、どうしても価格が高くなりますが、それを凌駕するだけの付加価値をどう示すかがアイデアの出しどころです。
学生たちが考えたのは、〇味気ない紙ストローを再生可能プラによるストローに戻していく逆転の循環、〇PCの外装を再生可能プラに変え、自分だけのデザインにできるようにする、〇メガネのレンズやフレームを再生可能プラに変え、サブスクで好きなデザインと流行を体験できるサイクルを作る、〇富裕層の環境意識を活用して、デパートの高級コスメの容器をリサイクルしたり、〇対馬に漂着する廃プラを再生して高級な割れないワイングラスを作る、などさまざま。実際に掛かるコストやリサイクルの実情など知らないことも多い中、かなりの「妄想力」を発揮せざるを得ませんが、自分の小さな疑問を発展させて果敢に着想する経験に挑みました。
ビジネス界が本格的に取り組み始めた持続可能なビジネスの在り方について、最前線の情報を学ぶことで、その後の企業選択やキャリア形成に活かしてほしいと考えています。
ご協力いただきました民間企業や団体の皆様、本当にありがとうございました。