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揺らがないホスピタリティとは

飴善晶子教授インタビュー (前編)

こんにちは。今日はビジネスデザイン学科の専門科目「ホスピタリティ・マネジメント」「インバウンドビジネス論」「経営理念と企業倫理」「女性のキャリア形成とビジネス」や、ゼミでは「地域活性」について展開されている飴善晶子先生に、ご自身の航空業界でのご経験や就活についてお話を伺いました。前編では航空業界におけるホスピタリティについてお話いただきます。(後編「就活戦略をアルバイトの延長で考えない」はこちら

飴善晶子・ビジネスデザイン学科教授

学科ブログ編集部(以下、編集部):

最初に飴善先生のご経歴を紹介します。日本航空に専門職(客室乗務員)として入社後、多くの国際線乗務に携わり、外国航空会社とのコードシェア便を担当しスペインの航空会社便に乗務したり、フランクフルトなどJALの海外支店2か所に勤務して「現場力」を磨きました。その後、客室乗務員の教育・訓練の責任者を経て、マーケティング・宣伝部門に異動、JALの経営破綻を経た企業再生期には再び客室乗務部門に戻って、社員の意識改革や新規企画の立案などマネジメントに携わっていらっしゃいました。

客室乗務員の仕事は、ホスピタリティービジネスの代表格といってもよい専門職だと思いますが、管理職や他部門を経験される中で、「現場力」と「マネジメント力」にはどのような違いがあるのでしょうか。

飴善晶子先生(以下、飴善):

私の中ではチームで共創するという点と、想像力と創造力を要するという意味では違いはないと思っています。

客室乗務員が担う業務の「保安要員」「サービス要員」という二つの役割の中で、「安全」は企業の存続基盤として最も重要で、乗務員としての責務として徹底的に意識づけされています。

ですが、利用されるお客さまにとって、「安全」は運送業として維持されていて当然、という認識をお持ちですので、再利用していただけるかどうかは、機内だけでなく予約・空港・機内、それぞれにおけるサービスの印象に大きく影響されます。機内サービスの中でも、ハード、ソフト、ヒューマンなものがあるわけですが、基本品質としての高品質を維持するためのマニュアルのほかに、フライトの季節や時間帯・場所によって、お客様の属性は大きく変わりますし、実は同じ便であってもその日、その瞬間によって全く異なります。ですから、ただ決められた手順で一律にサーブすればよいのではなく、相手の状況に合わせてニーズを予測し、そこに自分の判断を加えて動く、つまり「どのようにやるか」が非常に重要になってきます。

そのための客室内のチームワーク、運行乗務員とのチームワーク、出発前・到着後の空港の旅客サービスとのチームワーク、実はそれだけでなく、整備の方たちとの確認会話によるチームワーク、機内食を搭載するケータリング会社の方たちとのチームワーク、機内清掃や貨物搭載などをするグランドハンドリング会社の方たちとのチームワークなど、最高のバトンタッチを通じて「共創」されるチームワークが、一便一便の機内サービスとしてお客さまの印象に残るということなんです。

そのため、乗務員を育成するための訓練・教育や、組織での情報共有・意見交換、管理職との対話が、年間を通して実施されます。新人訓練・教育においても、マニュアルを覚えるということではなく、何故そうするのかを理解することを大切にし、そして、身につくまで繰り返しを徹底することがなされるため、応用力にも繋がり、ロボットには決してできない接客サービスになるわけですね。

また、専門職としての訓練・教育の前に、一人の人間としてどうありたいか、組織人としてどうありたいか(あるべきという押し付けではなく、自らありたいかと考える)、心の教育にも重点をおいています。これが、自立・自律心の醸成にもなっているものと思います。

近年、このような自律性や全人性は、どんな職種、どんな部門でも必要とされていると思います。人的資本経営が重視される現在のマネジメントにおいては特に。だからこそ、一人ひとりの乗務員・社員を大切にする組織のあり方や、組織そしてホスピタリティの重要性が、最も重要であるとも言える訳で、それが私の専門分野でもあって、学科学生にもその基礎的なことを講義しながら皆と話し合ったりしています。

編集部:

「サーブする側の自律性や全人性」とはどういうことなんですか?

飴善:

マニュアルは「いつでも・どこでも・誰にでも」を、その企業が維持する最高の基本品質で提供することを求めていますが、実はそれをやっていては「高い料金を払っているのだから当然だよね」ということで、これがサービス(等価価値)の領域です。ですが、それだけでは「また是非次も利用したいな」という風にはならない時代ですよね。

100人いたら100通りのサービスがあると言われますが、いかに一人ひとりのお客さまの気持ちに寄り添うことができるか、それは簡単なことではありません。どのようなお客さまが、その時々にどんな様子で、どんな感情・心情をお持ちかを理解するには、相当の人間力・共感力が必要なんです。

今だけ・ここだけ・あなただけ」を偏ることなくその場にいらしゃる方お一人おひとりが感じられるような気配り、目配りをなされること、これがホスピタリティの領域です。そのためには、やはり仕事の場でもそうですが、さまざまな場での経験が重要だと実感します。ですので、航空機内でのホスピタリティでは、「接客サービス」しているというよりも、個々の乗務員が「人としてどういう佇まいであるか」が基本であること、それが「サービス」の中でどのような表れ方をするかが重要なのだと思うのです。

それが個性を活かすということでもあって、一つの航空会社のブランドを背負い、ある意味では商品でもある客室乗務員ではありますが、その時々の一人ひとりのお客さまと一人ひとりの乗務員とが創り出す瞬間が機内のという場の空気感、雰囲気になっていると思うんです。

自分という軸がないまま、お客さまのおっしゃることに表層的に応じるだけでは、そのことにのみ込まれて真に求められているニーズにお応えすることができません。「対人」サービスとはいうものの、「相手」に対峙する「自分」自身の自律性、もっと言えば、その人そのものという核がないと、ホスピタリティを実現することは困難だと思っています。

編集部:

24年1月の羽田の事故は大変痛ましいことでしたが、その際、JAL機の乗客は一人も命を失うことなく避難を完了したことが、国内外で賞賛されましたね。その際の客室乗務員の方々の様子も伝えられていますが、「安全」と「ホスピタリティ」の両方を担うのは大変なことだ思うのですが。

飴善:

何より乗客・乗員の全員が無事に脱出できたことに安堵しました。私の感覚としてはここまでお話ししたように「安全」も「ホスピタリティ」も別々のものではないのです。

航空会社に働く者として「尊い命をお預かりする」という使命は常に持って仕事についています。その中でも、空の上での限られた空間を長時間共有するのですから、乗務員もお客さまもみな「一緒の船に乗る仲間」でもあるわけです。そのような一体感が今回のケースでも存在し、「みんな」の大きな力で可能になったことではないかと思います。その一体感は、おそらく瞬間にできたものではなく、出発前の空港、そして搭乗時、離陸後のコックピットからのアナウンス、機内サービスなどのお客さまとの時間が成したとも言えるのではないかと思います。

確かに安全という意味では、「運送業」にはハイジャックのような人的なものも含め、過去にたくさんの辛い事故・事件の経験があり、その都度学びを得て改善改革に努めてきました。ですから「安全に」「快適に」「つつがなく」というのは基本中の基本なんですね。

ホスピタリティとして問われるのは、過去のノウハウという土台の上で、乗務員一人一人がその「空間」や「時間」をどうしたいか、なのです。私はよく同僚や部下に、「メイク・ドラマしてきてね」と伝えていました。

「メイク・ドラマ」で変える仕事の「質」

編集部: 

 メイク・ドラマ・・・、もう少し教えてください。

飴善:

 たまたま何百人もの人が同じ便に乗り合わせる「一期一会」の場を、いかにオンリーワンにするか。それが自身にとって仕事を、働くということを、「面白く」感じ続けるかにもつながりますが、Something newの気づきがそこにもう一つ乗っかっていることが重要で、それには、あなた自身が想像力を発揮することが求められいますよ、ということです。

 サービスも「想像力」なんです。そしてその「想像力」を養うには、たくさんの現場経験が必要です。現場では、お客さまや同僚に出会う前からの「仮説力」、そして、「現状」をよく見て「こうかもしれない」という「観察・洞察力」、その結果、臨機応変に判断・行動する「柔軟性」が重要で、そのための「感性・感知力」が大事です。自分の仮説が違っていたら、それに拘らない素直さと、それに応じてやってみるという、もう一つの「創造力」も欠かせません。

よく「直感力」って言いますよね、個々の直感力は、豊富な知識だけではなく豊富な経験によって磨かれるものだと思いますし、そのためにも感性を磨いて人間力を高めることが大切なのではないかと思います。

編集部:

冒頭の話に戻ると、それが現場を離れた、経営部門でも大切である、と。

飴善:

そうです。主体的にといっても、「自分がやる」ということに意義を感じたり、「自己評価のため」では本来の目的から外れてしまいかねません。お客さまのニーズを把握し、そこに自分から湧いてくるアイデア・発想を合わせていくという点では、現場も間接部門も同じではないかと思います。コロナ禍のリモートワークにみられるように、直接会ったことない人、国境を越えて遠く離れた人とも協働する時代です。自分という核を持っていないと揺らいでしまって、質の高いものは生まれません。ですから、Something newを生むための自立・自律性と想像・想像力、共創・協働力は現代のビジネス・マネジメントにおいて共通して求められるものだと考えています。

(後編「就活戦略をアルバイトの延長で考えない」につづく)